



本稿はいかに効果的に英語のボキャブラリー・語彙を増やすか、について論じてみたいと思います。とにかく覚えるしかない!!という根性論があり、確かにそれは当たっているのですが・・・
ここで言う「効果的」には、
- 時間・労力的にどう効率的に語彙数を増やすか
- どう「使える」語彙を習得するか
という二つの意味合いがあります。
1の方は色々なメソッドが紹介されています。本稿はあまり着目されていない2の方にむしろ焦点を当てております。
想定する読者としては、❶受験にいそしむ中高生から、❷TOEICスコアアップを目指す社会人まで幅広い層が対象です。
英語の学習では文法(構造把握)が一番大切ですが、その次に装填する弾=単語です。
語彙が無いと入試問題やTOEICの長文の意味がまず分かりません。さらに読んで分かるだけでなく、どうせなら書く・話すのアウトプットにも役立つように。
この記事の著者: Tempest
- 横浜在住、40歳台前半の男性
- 米国のMBAを取得、専攻は金融
- 投資銀行マン等を経て、財務・法務系の翻訳家として独立(言語は英語・タイ語)
- Tempestの英語学習の記録
目次
語彙の種類「話すための」単語力とは?

語彙には大きく「認識語彙」=recognized vocabulary というものと「運用可能語彙」=retrievable vocabularyという区分けがあります。
見て意味が分かるという1次レベルのものが前者で、すぐアウトプット出来るという2次レベルのものが後者です。
単語をいっぱい知っていても英語をあまり話せない日本人は前者に留まっているのが原因です。
例えば、”emancipation”という言葉を見て単語帳で覚えたので「市民戦争の奴隷解放」のことだ!と分かる勉強熱心な人がいるとします。ここで1次レベルには行っています。受験やTOEICには最低これで十分です。
では何かを英語で書いたり話したりしている際、逆に「奴隷解放」って何と言うのかと考え、奴隷はslaveだが、あの単語なんだっけ、となる場合です。これでは2次レベルに到達していません。
emancipationとすぐ思い浮かんでもヨシ、駄目でもfreeing of slavesと組み合わせて出て来るならもっとヨシですが、オタオタしてしまっては実用の域に達していません。
この差を私はよく筋肉の嵩ばかり上げる無酸素運動・筋トレと、使えるしなやかな筋肉を付ける有酸素運動・ウォーキングやダンス等に喩えます。
数ばかり増やしてもいざ出て来ないならあまり使えない、ということですが、あまり良い比喩ではありませんね。
もう少し実際にあった極端でコワイ例を挙げます。筋肉ばかり付けて使えない実際の人物です。
教育を受けた=大卒以上の英米人の語彙数は3万5千~5万と言われます。こちらはほぼ1&2次レベルに達しています。一方、とある日本の翻訳家は職業柄英単語を6~7万は1次レベルで知っています(私です)。
では、英語の運用について、一般の知的な英米人と私を比べてどちらが上でしょうか?書くはともかく話すはそのような英米人の方がはるかに上でしょう。
これはやはりこの語彙の習得度・練達度の差にあります。話すだけなら英米の小中学生に負けます。
さらにコワイ例を挙げますと、昔NHKラジオ講座でサブ講師をしていたある英語教師が、語彙数25万語と豪語していましたが、付き添いのネイティブと英語で話すと日本語発音でしかもかなりつっかえています。
ライブでもないのに。何度か収録し直してもその程度しか行かない・・・というコワイ話です。筋トレだなぁ・・・と。
使える英単語を学ぶ!勉強法

このため、数が多いほどいいのは間違いありませんが、認識語彙に留まらないよう、なるべく運用も出来るようなボキャビルの勉強法を紹介します。
コンテキストによる記憶
昔からターゲット1400等を片手に赤いフェルトペンで単語を塗ったものに緑のセロハンシートのようなもので隠して覚える、という方式が電車で散見されますが・・・私もやりました・・・漢字と同じで「見ているだけではダメ」です。
- 「例文」のついている単語集を買う。単語の羅列だけはダメ。
- 単語を何度か書いた後、例文も一回写す。
- 時々、その単語を用いて別の文を自分で書いてみる。
例を挙げます。
中学生・高校生レベルの例
- 単語: Blind
- 品詞: 形容詞
- 意味: 盲目の
まず何度か3~5回ほどこの単語だけを要らない紙に書いて、意味を脳に、スペルを手に覚えさせます。
- 例文: Love is blind./恋は盲目。
まず意味を確認し、文章全体を一度写します。すると、単に意味だけでなくどういうコンテキストや構造の中で使うのか自然と覚えるようになります。
- 作文: He is so blind that he has chosen her as his girlfriend instead of me./彼はとても盲目なため、私の代りに彼女を恋人に選んでしまった。
自分で文を考えて書いてみることにより、2次レベルのアウトプット・応用力も鍛えられます。
大学生・社会人レベルの例
- 単語: Controversial
- 品詞: 形容詞
- 意味: 異論ある・議論を引き起こす(ような)
- 例文: Trump administration’s proposal to double its budget to construct walls alongside the Mexican border has been controversial enough to stir such hefty demonstrations by its “own nationals” in states neighboring to the country such as California for waste of taxes levied and possible shortage of cheaper workforce.
- 意訳: Tトランプ政権によるメキシコ国境に壁を建設するために予算を二倍にするという提案は、血税の無駄遣いや低廉な労働力が不足する可能性があるという理由で、カリフォルニア等同国に隣接している州の「自国民」による激しいデモを引き起こすほど異論の多いものであった。引用: Wall Street Journal(ウソ。私の自作です)
- 作文: My boyfriend’s public declaration yesterday of having made another girlfriend without telling me first and hence wanting to leave me made in our classroom was controversial enough to cause a big laughter among my classmates, and make me flash and kick his buttocks, literally (and I kicked him out as my boyfriend anyways).
- 意訳: 私のカレは昨日クラスで(アタシに先に告げずに)新しいカノジョが出来たのでアタシと別れたいと堂々と宣言したが、これはクラスメートが失笑するほど「異論のある」発言で、アタシも赤面して一応ヤツの尻をキックしておいた(そしてもちろんカレとしてもこちらからキックアウト!!)。
単語の品詞も覚える

さて、単語を覚えるポイントとしては「品詞」も覚える、ということがあります。
特に他動詞と自動詞の区別は重要です。日本人がよくやる誤りに、”discuss about the issue”というものがあります。discussは他動詞にしかならないので正しくは”discuss the issue”です。
つまり、前置詞無しで目的語が直接後ろに来ます。逆に自動詞のtalkの場合は”talk the issue”とはならず、”talk about the issue”です。
もっと簡単な例で、「中国へ行く」は”visit China”か”go to China”です。前者は他動詞=直接目的語をトル、後者は自動詞=前置詞を伴うです。
覚える際に、visitは「~を訪問する・~へ行く」、goは「行く」(~へ、はtoが担う)とします。「~へ」があるか無いかの違いです。
その他に、何故go to homeでなくgo homeか、について例として解説してみます。
まず名詞としての「家」にはhouseとhomeがありますが、同じ家でもhouseは単に構築物としての家、homeは家族内の温かさやいがみ合い等の中身を含む「家庭」寄りです。
ここで、houseは家にしかなりませんが、homeは「家へ」という副詞にもなります。つまり、「~へ」を含んでいるため”go back to my house”が”go back home”とtoが取れて変化するのです!やや理屈っぽいですが。
このように、まず「とにかく書く」ことで時間・労力面で覚えるスピードが上がります。赤いマーカーのは電車内での復習用にして下さい。スマホでゲームしているよりはエライです。
さらに、単に単語の意味とスペルだけではなく(1次レベル)、文脈と文法にも気を払い意識することで運用面(2次レベル)の力も付いてきます。
作文については、恋愛系とかテーマを決めると書き易かったりもします。内容は何でも構わないのですが、いわゆる「五文型」をなるべく崩さないよう、この点だけ意識して下さい。
語源を覚える
語源学とは

英語の学習を開始した当初思ったのは、一度覚えてしまえば組み合わせで色々造語が出来る漢字と違い、英語は一語一語「ランダム」な(スペルの)ものを逐一全て覚えなくてはいけないのか? ということでした。
しかし、時が経つにつれ英語にも一部漢字のような特性があると気付いてきました。
さて、英語の語彙を効率的に増やす方法の一つに「etymology(語源学)」というものを利用するというやり方があります。
語源学とは語の由来や起源を探る学問で、複数の語に跨って共通している「パーツ」の元の意味を知っておくことで、単語を覚えるのが容易になる / 見たことのない単語に遭遇しても意味が分かる場合がある、というものです。
例を見た方が分かりやすいので、以下いくつか挙げてみたいと思います。既にご存知のものもあると思いますが、一見関係なさそうだがつながっていた、というものもあり興味深いと感じられるかもしれません。
なお以下、若干暗い・ヤバい単語も出て来ますが、単なる一例で他意は御座いませんので予めお断りしておきます。「少し不思議な」例となるとどうしても変わった単語を挙げる必要があるためです。
語源学の例
「切る」の”sec”
「sec」自体では何の意味もなしませんが、単語の中に「sec」というパーツが見えたら、「切る」という意味を含んでいます。
- section: セクション・切開 日本語にもなっていますがそのまま「セクション」で、パーティションなりで仕切られているためです。また、医療における「切開」という直接的な意味もあります。
- second: 秒 最小単位に切り分けれた時間の幅、ということです。
- insect: 昆虫 さて、これは何故でしょうか? 虫の「節足」(関節のような部分)が肢の部位を分けているためです。
- vivisection: 生体解剖 ビビッドな切開です。
「殺す」の”cide”
昆虫のことを書いていたらこれを思いつきました。”~cide”とすると「~を殺す(もの)」という意味になります。
- insecticide / pesticide: 殺虫剤 insect / pest + cideです。ペストはそのままペストで、害悪のあるものを意味し病気以外に害虫という意味もあります。
- herbicide: 除草剤 herb + cideです。
- suicide: 自殺 “sui”の部分は「自分」を意味します。
- genocide: ジェノサイド “geno“の部分はゲノムと通じているかと思われます。「根」絶やしにする感じでしょうか。
「血肉・心臓・中心」の”car”
以下に見られるように守備範囲はかなり広範です。
- carnival: カーニバル 華やかなパレードのお祭りを想起しますが、何故「血肉」と関係しているのでしょうか。日本語に訳すと「謝肉祭」だからです。元々宗教的儀式として一定期間肉を食べることを絶ったことに由来しています。
- cardinal: 枢機卿(すうきけい) キリスト教の「中心」を担う僧侶の役職です(最近どうもスキャンダルが多いようですが・・・)。
- cardiac disease: 心臓病 心臓病は単に“heart disease”とも言いますが、専門的にはこのような表現をします。
- cannibalize: 共食いをする 上記と比べると少し形が遠いですが、仲間です。「共食いをする」という意味で、ビジネス用語でも「カニばる」(自社支店のロケーションが近く、売上を取り合いしてしまうこと等)として日本語でも用いられています。
「足」の”ped”
- pedal: ペダル こちらは想像に難くありません。
- peddler: 行商人 こちらは何故でしょうか。行商人(セールスマン)は「足で稼ぐ」から、です。
- pedestrian: 歩行者(の) こちらもそのままです。
- pediatrics: 小児科 何故でしょうか? やや迂遠ですが、「よちよち歩きの子を診察する」という意味で実は足つながりです。
「息吹」の”spiration”
こちらは「息吹」系で、何かモヤモヤしたものが出たり入ったりすることを示します。
- inspiration: インスピレーション 霊感が宿る(入って来る)という感じです。
- perspiration: 発汗 エジソンの「天才とは、1%のひらめきと99%の努力(発汗)である」(Genius is 1 percent of inspiration and 99 percent of perspiration.)という言葉は有名です。
- aspiration: 熱望 こちらもモヤモヤ系です。
- expiration: 発散・失効 元は“inspiration”の反対の語で、何かが出て行くことを示しています。ここから転じて、法律用語で(契約等が)「失効」することという意味でよく用いられます。
「全て」の”omni”
オムレツみたいな響きですが。
- mnipotent: 万能の 神のことを示すのによく使われます。全てを示す”omni” + ポテンシャル(潜在能力)つながりの”potent”です。
- omnivore: 雑食動物 何でも食べるためです。ちなみに肉食動物は”carnivore”、草食動物は”herbivore”です。前出の”car”や”herb”ともつながっており、点が線になって来ている感じです。
「二つ」の”ambi / amphi”
- ambivalence: あいまいさ・躊躇 「アンビバレンス」とはカタカナ語で日本語にもなっているようです。”ambi”が二つを示し、後ろの部分が「価値」というような意味ですので、「両面性」「二面性」という意味を全体として形成しています。
- amphibious: 水陸両用(の) この語は軍事的に水陸両用車を示したり、生物学的に両生類を表したりするのに用いられます。
以上の例で、英語の「パーツ」の意味を知っておくと語彙を増やしやすい、時に知らない単語でも意味が推測出来ることがある、とお分かりになったかと思います。
一方で、残念ながらこれは万能の・網羅的なレシピではなく、部分的にしか適用出来ません。単に丸覚えしなくてはならない単語が多いのも事実で、そちらの方が多数派です。
また、学術書は別に市販のテキストで語源学に関する良い本は思い浮かばず、私の場合辞書を引く度に注釈に載っているのを見て知識を重ねて行ったという感じです。
ただボキャビルをする際にこの語源学という点も頭の片隅において進めると、長期的に何がしかの効果は出るものと思われます。

まとめ
個条書きで行きます。
- 語彙には1次レベル=認識レベルと2次レベル=運用レベルの2階層あり、受験やTOEICには前者レベルでOK、チャットやいわゆる英会話には後者レベルが必要。
- 見てるだけではダメで、ひたすら書いて覚える。例文を写すと文脈も分かり、作文するとアウトプット力もアップ。
- 品詞にも注意。文法、案外大切です。
- 語源学という点も念頭に入れましょう。
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