




この記事の著者: Tempest
- 横浜在住、40歳台前半の男性
- 米国のMBAを取得、専攻は金融
- 投資銀行マン等を経て、財務・法務系の翻訳家として独立(言語は英語・タイ語)
- Tempestの英語学習の記録
目次
MBA卒業後の金融業界でのキャリア

本稿ではMBAでファイナンス専攻を予定している方向けに、MBA卒業後の金融業界におけるキャリアについてご紹介してみたいと思います。
MBAを卒業してからさてどうするか? と考えるのではなく、MBAに入る前から卒業後どうするか・何がしたいか、作戦を練っておく必要があるためです。
さて、一般的なイメージではMBAで「戦略」を専攻した場合「経営コンサルタント」、「金融」を専攻した場合「投資銀行マン」という固定観念がありますが、これではざっくりし過ぎです。
一口に投資銀行業務と言っても様々なものがありますし、以下に見るようにファンドで働くなど他の選択肢もあります。
ファイナンスを専攻しても、別にこのようないわゆる「プロッショナル」になるのみが選択肢ではなく、給与面ではやや劣るものの一般の事業法人の財務系で働くことも可能です(その分ラクです)。
本稿ではバリバリ高給と栄誉を目指す「正当MBAホルダー」(笑)向けに「プロ」の方のご案内を致します。
普通のいわゆる商業銀行に就職するケースもあるかもしれませんが、ここではウォール・ストリートや大手町に居を構えている「投資銀行」(証券会社)か「ファンド」に話をしぼります。
なお「セルサイド」と「バイサイド」という用語があり、
- 投資銀行は他人同士の仲介をする・売り買いさせるだけなので「セルサイド」(以下”sell”)
- ファンドは自分で投資する・買うので「バイサイド」(以下”buy”)
と呼ばれています。
投資銀行マンのお仕事

さて以下具体的にMBAホルダーがよく就く仕事をさっと具体的に紹介したいと思います。
投資銀行はネーミングからすると投資「する」銀行のように聞こえますが、上記のように投資「させる」銀行で”sell”です。
一方ファンドは実は普通の銀行に似ており、資金を集めてプールし、自己取引で大きく投資して儲けた分から手数料を差し引いて投資家に返す、という箱のことを言います。なので”buy”です。
では銀行との違いは何でしょうか?
銀行には社会的性質があり、資金を募るのは我々のような不特定多数の庶民からです。一方ファンドは希望者のみ、大抵小数のお金持ちや法人顧客から募ります。
銀行の投資先はいわゆる中小企業に対する「貸付」(負債証券)ですが、ファンドの場合株式や持分(資本証券)を買って一時オーナーになります。
それでしばらく温めて、時にうるさく経営に介入して、価値が上がったらまた売却して儲け、報酬を差し引いて投資家に返す! という感じです。
では以下、大まかな投資銀行の業務別部門・職種とファンドの種類・職種について解説致します。
- (*^_^*)mba は、MBAホルダーがよく就く職種です。
- (‘ω’)ノmba は、MBAホルダーが時々就く職種です。
- ( ;∀;)mba は、MBAホルダーはあまり就かない職種です。
投資銀行 / “sell”
# IPO (*^_^*)mba
ご存知と思いますが、IPOは「イニシャル・パブリック・オファリング」の略です。
これまで未上場だった会社が上場し、事業拡大のために市場から広く資金を集める、創業者が自分の株式を一部手放して換金(実現)する、あるいはその両方を手助けする仕事です。
具体的には、上場要件クリア(財務指標等)・登録手続きを手伝ったり、発行価格を推定して引用したり、宣伝したり、流通を助けるために最初ある程度の引受先を探したり目星を付けたりする仕事です。
投資銀行業務の中でも一番儲かります! というのは、大まかに調達出来た資金額X数%という手数料が入り、膨大なフィーになるためです。
このため投資銀行側もなるべく大きな額を発行してもらおうと張り切ります。
すでに上場している会社が資金調達のためにさらに新株を市場で発行するSPO(セカンダリー・パブリック・オファリング)という類型もあります。
トレーディング ( ;∀;)mba
主にIPOを経て上場済みの株式に対し、顧客がこういう株式をコレコレの値段でいくらほど欲しい、というのに応じて市場で買い集めたり、大口で保有している誰かから買ってきて融通する仕事です。逆の売る、もあります。
特に日産など大手の流動性の高い株式(個人でも売買出来る)でなく、上場しているがあまり聞いたこともない取引量の少ない株式に対するサービスが本来のソレです。
M&A (*^_^*)mba

「マージャー & アクイジション(合併及び買収)」の略で、上記が主に上場・市場周りの仕事であるのに対し、こちらは未上場がメインで、難しく言うと経営支配権が移動するような過半の株式を塊り・相対で取引するのを助ける仕事です。
基本現所有者から買収希望者との一対一の交渉なので、手続き等だけでなく、利害調整や交渉を第三者として(弁護士のような感じ)買って出ます。
このため職業的にはM&Aアドバイザーなどと呼ばれ、MBAホルダーが一番なる仕事です。
売買価格を決定するバリュエーションやら法務面での交渉などやたら手間と時間が掛かり、人手が要る・仕事があるためです。売る側にも買う側にもアドバイザーが付き、喧々諤々の交渉をするイメージです。
手間が掛かる割にはIPOほど儲かりません。人件費が掛かり過ぎるためです。場合によっては一つの案件に何年も交渉したりします。ニュースで発表されるのはその泥沼の交渉の結果のみです。
ルノーと日産の資本提携にも日産側である外資の日本支社が関わっており、指揮を執った日本人はこの世界ではそのトップ人材としてかなり有名ですが、今その名はやや凋落しているかもしれません。
ディールにはトップ人事が含まれていましたので、一体誰が斡旋したんだ? と。
このように一回の取引で売買ロットがかなり大きくなりますので、主に未上場の取引になりますが、上場していても市場で買い集めて買収することがあります。
方法的にはTOB (テンダー・オファー・ビット)と呼ばれ、この値段で買うから売りたい人は売ってくれ! と告知して行います。なるべく集まるように市場の現行価格より少し高めに設定するのが普通です。
なお買収される側の現経営陣がディールに反対しているのが「敵対的買収」で、別に反対していないのが「友好的買収」です。
ディールをただこなせば儲かる投資銀行マン・・・M&Aが成立したら後は経営がうまく行こうがどうか知らん・・・にとっては後者の方がやり易いすね!
なお、統計的には買う側が調子に乗って高値を付け過ぎて、結果投資リターン的に失敗しているケースの方が圧倒的に多いとされています(「勝者の呪い」と呼ばれています)。
それでも投資銀行マンはディールが終わったら知らんぷりです。
当時のバリュエーション、ホントに合ってました? と後で文句を言っても後の祭りです。
アドバイスはしますが、最終的な可否のご判断はご自身で、後の責任は一切取りません! とアドバイザー契約で強く釘打ってあるため・・・。”sell”の本領です。
証券アナリスト (‘ω’)ノmba

さて、他にも色々ありますが、以上が投資銀行の主な「業務」(収益源)で、こちらは業務・部門あるいはプロフィット・センターというよりは遊撃的・間接的な仕事です。
顧客の「参考」で、株式銘柄の将来の収益性を分析し株価が上がるだろう・下がるだろう・現状維持だろう、と予想してレポートを書く仕事です。
このため実は脇役なのですが、世上ではこちらが一番有名かも知れません。レポートは有料の時も無料の時もありますが、昨今は「付随サービス」として無料のものも多いです。
多くのアナリストは「自動車」「エネルギー」などのセクターに特化しており、上場の中でもある程度の大手のみがフォローされ、小粒は無視されます。
この場合も、投資・売買するかどうか最終判断はご自身で、ということなので投資銀行らしく、この点「畏怖」を込めて正式には「セルサイド・アナリスト」と呼ばれます。
内部的にはトレード業を促進する、IPOやM&Aの際にも他の既上場企業を参考に価格付けをヘルプする、など内外で色々仕事をします。
未来のことを本当に当てられるのかしら? という話はあります。
上がり下がりの的中率が高い人を順位付けするアナリスト・ランキングというものがあり、米インスティシューナル・インベスター誌 = 機関投資家マガジンのものが有名です。
日本の場合、証券会社本体より子会社のシンクタンク(野村総研等)に属している場合が多いですね。
営業マン
その他、「業務」ではなく「営業」の仕事も普通の会社と同じようにあります。
多くアカウント制で営業員がいくつかの会社を担当して御用聞きに回ったりします: そろそろIPOしませんかー、この会社M&Aで買いまへんかーなど。
ドラクエの魔法剣士のようにIPOやM&Aも経験があり業務(魔法)もたまにするが、アカウント(剣での攻撃)もする「カバレッジ・バンカー」と呼ばれるどっちつかずのポジションもあります。
MBAホルダーでいわゆる営業マンになる人は少ないですが、金融機関で実務経験が先にありMBAを取ってカバレッジに行く人は時に居るそうです。
投資銀行の例
さて投資銀行には大小無数にありますが、外資の有名どころではゴールドマンサックスやメリルリンチ、「潰れた(潰された)」リーマンブラザーズなど。
本邦では野村、大和、「潰れた(潰された)」山一など。
さて余談で、米国の大手証券会社のネーミングはメリル、リーマンを初め「創始者の人名」が多いです。「町の株屋」だったものがいつの間にか大きくなったものです。
なお「ハウス」・「ブティック」と呼ばれ、このような部門を全て要する総合投資銀行と違い、M&Aにのみ特化する会社や非証券企業の一部門もあります。
普通の銀行系や監査法人の一部門、完全独立系です。
少なくとも後者にはMBAホルダーは「オーナー企業で危ない」ので行きません。KPMGなどの監査法人は行く人もあります。
ファンド / “sell”

ファンドはブラックロックなどの超大手を除き、投資銀行のように色々な部門を兼ね備えていることは少なく、特化していてそれが上記の業務部門に対応します。
作業より知的集約産業なのでアセット規模 = 預かり資金額は大きくても投資銀行より小人数です。
このため、就職口としては比較的窓口が狭いでしょう。さて分け方は色々あるのですが・・・投資対象・手法で大まかに分類してみます。
いわゆるファンド (‘ω’)ノmba
資金をある程度のロットで希望者から集め、上場株式から社債などうまくバランス(分散)を取って投資する、我々消費者や401Kでも聞く普通のファンドのことです。
インデックス型といって無難に市場平均並みにするために分散を重視するもの(庶民向け、ローリスク・ローリターン)と、
ストック・ピック型といって自分の判断でこの銘柄をという自信過剰型(金持ち・ギャンブラー向け、ハイリスク・ハイリターン)のものがあります。
統計的には前者の方がなべて強いと出ております(市場には勝てない)。
一方、買い入れたりリバランスする銘柄が多いため、運営費・フィー的には前者の方が大変です。後者の方が当てた場合のファンドの分捕り分が多くなります。
また、前者はリターンの絶対値がマイナス(例えば-2%/年)でも、市場のパフォーマンス(例えば-4%/年)より上だと、ベンチマークを2%アウトパフォームしたとか報告書で言い張るので、小口出資や年金投資する庶民は注意が要ります。損は損やで!
投資スタイルとしては、
「バリュー型(掘り出しもの型)」「コントラリアン型(逆張り型)」といって見放されていて有名でない割安感のある株式やこれまでリターンがさえない株を主体にするものと、
「グロース型(成長型)」と言って伸びていて有名でキラキラの株式(マイクロソフトなど)を対象にするものの二種類が大別してあります。
どちらが正しいかは人知では分かりませんが、統計的には今の所不思議なことに前者の方が強いです。
PEファンド (‘ω’)ノmba

PEファンドも王道ファンドと仕組みは基本変わらないのですが、一般庶民よりもっと博打家の投資家向けです。
M&Aも駆使しながら、あまり分散せず狙った未上場の企業の株式を塊りで買い、温めて最後上場させるか再度M&Aで転売し、換金(エグジット)して大きく儲けようとするより危険なタイプです。
出資者はガツンと儲ける可能性もある分、ファンド側の成功報酬のフィーもその分大きいです。
持っている株が未上場で、ファンド自体の価値もはっきりせず、持っている株式が換金出来ず潰れて突っ込んでも1ドルも返って来ないことも多々あります。
でも基本有限責任なので、経営者のパートナーは夜逃げもせずゆうゆう逃げて行きます。
世界一のファンド、バークシャー・ハサウェイも今は巨大になりましたが・・・同ファンド「自体」が上場したりしてます!
元はコレで、トップのウォーレンバフェットの勘の強さで成長しました。彼のスタイルはバリュー系で、未発掘の企業に大きく投資して育てて放す、というものです。
今では大きくなり過ぎて、上記の一般のファンドと半々という感じで上場株も買っています。リーマンの救済・資本注入を求められてしなかったのは有名で、ここでも良い勘と言えます。
ここまでがファンドの主な分類です。投資先が上場株寄りで安全か、未上場株寄りで一発勝負型か、という感じです。
アナリストのお仕事
仕事的には全体的な投資・分散意思決定をするパートナー = 巨大ファンドでない限り往々にして創業者と、雇われのアナリストとなります。
このアナリストは個々の投資対象の収益性を分析するもので、投資する側のスタッフのため「バイサイド・アナリスト」と呼ばれます。
やることはセルサイド・アナリストとほぼ同じですが、あまり文句が付かないぐらいの情報を適当に提供しておけばいいサラリーマン的”sell”と、自分の判断が直に投資の結果に影響を与える”buy”では真剣さが違うでしょう。どちらが良い、とは言いません。
パートナーは大概オーナー・創始者ですので、MBAホルダーが就くならこのアナリストになり、成果によってはパートナーに出世します。
ヘッジ・ファンド
その他、異常な投機行動をする「ヘッジ・ファンド」というものをよく耳にします。これは何でしょうか。
「ヘッジ」と聞くと安全そうですが、元々「互いに逆の動きをする証券を同時に買って相殺させ、その価格差・歪みを利用してリスクなく儲ける」統計学を駆使した安全なファンドを謂います。
が、そううまい話がそうそうあるはずなく、逆に変な投資戦略を持ち出して大儲けしたりすぐ潰れたりして、ヘッジといいながら投機(スぺキューレーション)の代名詞になっています。
こちらはギャンブラーでない知性派のMBAホルダーは行きません。
また、採用されるとしてもコンピューターを多用するため、数学・物理学・コンピューターサイエンスの専攻の人だけなので、MBAは門前払いです。
投資銀行におけるデリバィブ関連等の数理トレーダー「クオンツ」も残念ながらMBAホルダーは採用されません。GMAT Mathの点が50でもダメです。
本音で投資銀行マンの給料は?

ざっくりです。
投資銀行のIPO / MBAのキャリアは概ね、
- アナリスト(ヒラ、新卒~3年): ほぼスプレッドシート等のデスクワークのみ→
- アソシエイト(主任、4年~10年・個人差アリ): デスクワーク中心だが見習いで交渉等も→
- VP / バイス・プレジデント(副社長に聞こえるが課長・担当部長レベル): チーム・案件管理・交渉、営業、忙しいと自分でもデスクワーク→
- ディレクター(部長以上): 大型案件管理、主にトップ営業
となっています。VPからがいわゆる管理職で、MBA卒業者は大体二番目のアソシエイトから始まります。
まず、日本の証券会社は概して一般企業より給与が高いですが、外資はもう少し高い感じです。
ただ、日本の労働環境に合わせているため、本場のウォール・ストリートのように突出して高いということもないようです。
管理職のVPレベルになると、日本の証券会社なら固定給で1,000万円台のどこらか(でも前半ですね)、外資なら場合により数千万になりますが、実力主義でIPOやMBAなどの実績自体でガタガタ変わりますし、あまり実績が上がらないとクビになります。
アソシエイトでは基本給で4桁は日本のでも外資でもまずありませんが、毎日終電・月に休暇1日という地獄の超勤に対する手当で成り立てのVPより手取りは高くなることもあります・・・(1,200万円とか)。
「Up or out」ということが外資のコンサル会社や投資銀行では言われます。
上がるか、でないなら辞めろという意味です・・・辞めてもキャリアがいいので他に就職出来ますが。
そういう生き残りに勝ち残って外資のVPや日本・外資のディレクターになると40台中盤で1億円超も可能です。
ちなみに私は3年も経たないうちに、VP昇進目前でもう疲れたわぃとアソシエイトで脱落(笑)。4桁も行かずです。よっほど根性がないと出来ないのは申し上げておきます。
ただ、毎日深夜残業を一生やらなくても、数年投資銀行で働いてから続けるか、外資系企業等の事業法人に転職という選択肢はあります。
MBAと投資銀行の実務経験のスキルがあれば引く手あまたで、こういうことも可能です。ため、色々分岐を想定しておくのも必要です。こちらは戦略系も同じことが言えます。
最後に
本稿はやや長くなりました・・・。これは、単に「MBA取って投資銀行マンになる!!」と言っても色々アルよ、ということです。
ご自分の適性、やりたいこと、そして根性を考え、本稿をご参考にMBA卒業後の人生設計を検討して頂きたいです。




