本当は意味のないMBAコーポレートファイナンス

ねこ君
こないだMBA卒の人に聞いたんだけど、会社の価値って借金すると上がるんだって?すごくない?
ねこ君
ああ俺も早くMBA合格して、コーポレートファイナンス学びたい!!
にゃんこ先生
借金して時価総額が上がるなんて魔法みたいな話あると思う?うまい話には裏があるって言うのは、英語学習だけではないんじゃないかなぁ。
にゃんこ先生
今日は、MBAで学ぶコーポレトファイナンスとはなんなのか、実際にアメリカでMBAを取得し、投資銀行で経験を積んだTempestが紹介するよ!!

 

この記事の著者: Tempest

  •  横浜在住、40歳台前半の男性
  •  米国でMBAを取得、専攻は金融
  •  投資銀行マン等を経て、財務・法務系の翻訳家として独立(言語は英語・タイ語)

「そんなの関係ねぇ」 MBAコーポレートファイナンス

“I am sorry to tell you this, but corporate finance doesn’t matter.”

「こうは申し上げたくありませんが、コーポレートファイナンスは詰まる所意味がありません」

 

私がMBA時代の二年次に履修した”Advanced Corporate Finance”(上級コーポレートファイナンス、と言いつつ大して上級ではありませんでしたが)というクラスの冒頭で、スライドに上記の発言が映し出されました。ん? と思ったものです。意味があるからこそ学んでいるのでは? と。

これはMM理論として知られるコーポレートファイナンスの基本原理を提唱した、ノーベル経済学賞受賞者のモディグリアーニ & ミラー(Modigliani & Miller)による発言です。

 

# 資本構成無関連性命題(Capital structure irrelevancy theorem)

→資本構成は企業価値に影響しない

 

# 配当無関連性命題(Dividend irrelevancy theorem)

→配当政策は企業価値に影響しない

 

と呼ばれるもので仰々しいですが、平たく言うといわゆるCFOが採択する企業の資本・財政政策は「基本」(理論的には)意味がナイ、そんなの関係ねえ! というものです。聞いた所直感に反します。

内容的に中々興味深いので、以下MBAでファイナンスを専攻される方の「予習」向けに平易に何を言っているか説明してみたいと思います。

 

背景

これらの理論は、厳密には「無裁定理論」という枠組みで数理的に示されます(実際に論文を読んだことがありますが、本当に「数学的に証明」されている、つまり間違いのない真実です)。

また、物理学でいう「摩擦の無い」ような世界を想定しており、税金・取引コスト等が無い、同じ利子率で自由に・無限に貸借出来るというようなかなり非現実的な前提を置いています(特に「税金」の側面が現実と比べるとかなり問題となります)。

ここで、真打ちは中々難解ですので以下大まかに・感覚的にこういうことを言っていると比喩を用いてご紹介致します。このため本稿は「厳密ではない」点ご承知置き下さい。

 

状況としては、イリノイ州在住の「エムビー君」(9歳)がお小遣いから貯めた10ドルを手にしており、あれくれいじくっているという設定です。これで比喩的に説明した後、もう少し現実的な説明を加えます。

 

MM理論の概要

資本構成無関連性命題

資本構成無関連性命題: 資本構成は企業価値に影響しない

もう少しくだけた言い方をしますと、D/E比率あるいは負債・資本比率(調達割合)は企業価値に影響しない、と言っています。

 

さて、エムビー君がお気に入りのぬいぐるみ二つ、ピンク色の熊「デビー」と黄色の熊「エクイー」に手持ちの10ドルをどう分け与えるか(あるいは預けるか)、悶々としています。5ドルずつ平等に与えるか。エクイーの方が好きなのでデビーに3ドル、エクイーに7ドルとするか。さて、どちらを選んだ場合も、部屋の中にあるドルの総額は10ドルで変わりません。

一般には、「ピザ」をどう切っても元の大きさが変わるわけではない、という比喩がよく用いられます。

 

さて、ある仮想企業のバランスシートでもう少し現実的な説明を試みます。時価ベースで、バランスシートの左側 = 企業価値を10ドルとし、右側がオーナーシップの構成とします。以下の二例を見比べてみて下さい。

バランスシートの左側と右側、どっちが先に決まるの? という禅問答のような問題はありますが、ここでは左側を所与としています。さて、右側のオーナーシップ構成がどうであろうと(どう分配しようと・切ろうと)左側は10ドルのままで別に変りません。

 

なので、そんなの関係ねぇ、と言っています。

なお現実的には負債には「タックス・シールド効果」(支払利息を損金算入出来、税金を減らせる)がある、一方で負債が増えすぎると倒産リスクが高まる、等の派生的効果があり、そんなに単純ではありません。が、まず基本関係ねぇと言っています。

 

配当無関連性命題

配当無関連性命題: 配当政策は企業価値に影響しない

これはもう少し簡単にすると、配当を出すか・自社株買いをするか否かは企業価値に影響しない、と言っています。

 

エムビー君は普段青い豚さんの貯金箱の中に全財産の10ドルを入れています。さて、ある日そのまま中にしまっておくか、2ドルだけ取り出して中には8ドル残しておくか、どちらにするか迷い始めました。しかし、どちらにしても所持金の総額が10ドルなのには変わりません。

またここで仮想企業を考え、中に10ドル詰まっているとします。オーナーは複数でもいいのですが、単純化のため1人とします。そのオーナーは会社を丸ごと「保有」しています。では、配当の決議を自分でして2ドル会社から自分(株主)へ払わせるか否かを考えます。配当をしなければ10ドル詰まった会社を丸ごと保有しており全財産は10ドル、しても8ドル詰まった会社を丸ごと保有しており一方手元には2ドルで、結局全財産は10ドルで変わりません。

なので、そんなの関係ねぇ、と言っています。

 

現実的には一般に配当に対してはその総額に対して税金が掛かり、株式を転売した場合のキャピタルゲイン税(利益にだけ掛かる)より総体にやや不利という点が違います。

また、「皮算用」的な視点で心理的に手元にキャッシュがある方がなんとなくいい、あるいは具体的に使うニーズがある、という投資家の気分・必要性で配当に対する見方が変わる(企業価値に影響してしまう)ということもあります。

かつ、配当は経営者からのシグナル的な効果を果たすという見方もあります。「利益が出てるぞ」という良いシグナルなのか、「投資案件・新規事業がないので余ったキャッシュは返します」、という悪いシグナルなのかはケースバイケースですが・・・。

 

株式分割無・併合関連性命題

株式分割・併合無関連性命題: 株式分割・併合は企業価値に影響しない

 

これはMM理論の枠組みの中にあるものではありませんが、似ているのでご紹介しておきます。意味はそのままで、株式分割(流通する株式の数を増やす)や逆の株式併合(流通する株式の数を減らす)をしても企業価値には影響しない、と言っています。

エムビー君は10ドル札1枚だけを持っておくか、お母さんに両替してもらって1ドル札10枚にするか、迷っています。が、この場合もいずれにせよ所持金の総額は10ドルです。

 

数や足し算・引き算の概念がかろうじてある保育園・幼稚園程度の小さい子供に、100円玉1枚と10円玉10枚どちらかを選べ、と言うと数が多いのでなんとなく後者を選ぶ場合が多い、云々という心理学的な研究結果を聞いたことがありますが、実際には別にどちらでも同じです。

ここでまた時価総額が10ドルの仮想企業を考えます。発行する株券の枚数が、1枚・2枚・5枚のケースを考えると、1枚なら10ドル/株、2枚なら5ドル/株、5枚なら2ドル/株となるだけで時価総額が10ドルなのは変わりません。株券をやたらと印刷しても別に企業の価値には影響しない、ということです。

なので、そんなの関係ねぇ、と言っています。

 

一方で、株式分割をするとロット価格が下がって(個人投資家が)購入しやすくなり、利便性を高める(のでは?)、という議論もあります。また、株式数を増やしてロット価格を下げるのは、経営者の「うちの株式に対する需要が増えるだろう」という自信をシグナルする効果がある、という議論もあります。

 

まとめ

統計的な実証研究では「関係ある場合もある」というのが大勢ですが、理論的には「関係ねぇ」というのが現代コーポレートファイナンスのスタート地点です。これは一見不思議な感じがします。

別の言い方をすると、財務構成をやたらといじくっても本業を強化(バランスシートの左側を経営手腕で膨らます)しないと企業の価値は上がりません、と言っています。ファイナンスが要らん、ということもありませんが、MBA的にも示唆に富んだ内容です。

 

にゃんこ先生
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