



本稿では、昔から様々な異論があるいわゆる「学校英語」 = 日本の中・高(公立)で教えられている英語の是非について述べてみたいと思います。特に基礎となる中学英語に着目します。
筆者は本サイトで様々な英語の学習メソッド・教材についてコスパの面も重視しながら論評・推薦をしており、本稿もその一環です。
客観的に学校英語の良い点・悪い点双方を述べますが、結論としてはコスパの面も勘案してなべて肯定的です。
対象の読者としては以下を想定しております:
- 英語学習に悩む中学生
- 受験で必須科目の英語が苦手で、中学レベルからおさらいしたい高校生
- 英語からしばらく離れており、もう一度基礎からやり直したい社会人
この記事の著者: Tempest
- 横浜在住、40歳台前半の男性
- 米国のMBAを取得、専攻は金融
- 投資銀行マン等を経て、財務・法務系の翻訳家として独立(言語は英語・タイ語)
- Tempestの英語学習の記録
目次
はじめに
- 中高生: 信じて学校の教科書通りに学習して下さい。やって決して損はありません。
- 社会人: かなり忘れている場合、高い英会話教材(スピードラーニング)や英会話学校にいきなり手を出すより、コスパ面でまず学校英語を復習してから他のメソッドを検討するのは一手です。
学校英語は無駄なのか?

では何故昔から日本の英語教育はダメと言われ続けているのでしょうか。
筆者の経験をまず語らせて頂きます。筆者は40歳台前半のロートルであるため、中高で英語を習ったのは遠い昔の話ですが、今思い起こすと「こんなの意味ない」「日本で住むのに英語なんか要らない」と思いつつも大学進学に必須とされているため、最低限要求される程度にイヤイヤ勉強していました。
さて現在はフリーランスの翻訳家(対象言語: 英語・タイ語)をしており、これだけで辛うじてメシが食えるレベルにはなっています。
本格的に英語を志したのは遅まきながら大学生になってからで、その後勉強しているうちに面白さにも気付きました。そして、当時ぼんやりと中高の頃もっとしっかりとやっておけば良かった・・・と痛感したのを覚えています。
つまり、英語をある程度解するようになってから、バカにしていた学校英語も案外しっかりしていたと事後的に悟ったわけです。
では、何故「学校英語は使えない」となるか:
- 使える・喜びが分かるまでに到達しない
- どうせ無駄とさぼっている人が主に文句を言う
ということに原因がありそうです。私の経験ですと大学でESSに入って、中高6年間しっかり英語を勉強し、厳しい受験をくぐり抜けた人達は喜びの分かる境地にすでに大学一年生で達していました。
一方で、座学 = 文法・読解が中心で、実用面 = オーラル・会話に日本の学校英語は弱い、という批判はあります。これは確かにそうかもしれません。コミュニケーション主体のTOEICと学校寄りの英検を比べてもそうです。
しかしながら、日本語と英語が音声面でかなりの隔たりがあり(文法面もそうですが)、日本人が母国語の特質上特に発音が苦手、という根本原因があり何も学校英語がダメだから、ということにはなりません。
また、私の頃はリスニングの学習などほぼ皆無でしたが、今では授業にリスニングも取り入れられ、定期テスト・受験ともある程度の割合でリスニングが出題必須とされており・・・なお10~15%程度で英検と同じくウェイトは低いですが・・・この点も改善の兆しは見られます。
まとめると、学校英語が悪いというより、面白くなる前にくじけてしまうモチベーションの方に責がありそうです。
英語学習の意義

まず英語を学習する意義を考えてみます。
実用的な観点からすると:
- 英語は事実上の国際言語であり、ビジネスのグローバル化が進むにつれ使う機会が増えてゆく。
- 仕事でなくとも、世界の様々な人とコミュニケーションが取れるようになる。
というものがあります。
根本的な観点からすると:
- 外国語(特に日本語と構造の異なるもの)を学ぶことで、根本的な言語能力が磨かれる。母国語も間接的に上達する。
- 英語自体を学ぶことの喜び。
- 他国の文化・風習等への理解が深まり視野が広がる。
等があります。
さて、受験で強要される英語、あるいは学んでも結局喋れない英語、という文句については前者の「実用的な観点」に固執し過ぎています。
社会人で英語をやらねば、と思い立った方は、要らんと思っていたら思ったより仕事で必要とされる、というのがきっかけなのが多いのではないでしょうか。
中高生の場合、受験でどうせやらされる、というのが多いと思います。
このように、まず必要性からという強迫観念で英語を学習し、イヤイヤやっていると結局身に付かないので「無駄」という議論になり、諸悪の根源は強制王の学校英語だという話になります。
一方純粋に「それがいいから」だけで勉強をするのは中々難しいですが、それ自体にも意味がある、と思うと少しやる気が出るかもしれません。
英語は書面でも音声でもまずカッコいい、というのは皆さん同意出来るかと思います。
ニーチェに「食べて初めて出る本当の食欲」という言葉があり、ある程度出来るようになってからでないと英語の良さも分からないのですが、中高生諸君も騙されたと思ってやってみて欲しいものです。
初心者は中学英語からやり直すべき、3つの理由

①文法中心で英検準一級への軌跡に
英語はどれぐらい出来ると役に立つ(実用面)あるいは良さを感じる(根本面)のでしょうか。
大まかに、
- 平易な英字新聞を、辞書を使わずに読んで概ね理解出来る。
- 平易であまり速すぎない英語ニュースを、聞いてある程度理解出来る。
というレベルです。読む・聞く(インプット面)が備わって来ると書く・話す(アウトプット面、楽しいがより難しい方)も勝手にある程度付いてきます。
新聞やニュースを挙げたのは、グダグダのお喋り英語ではなく、しっかりした正統派の英語、ということを言っています。
すると、語彙なども大切ですが、まずは構造の理解・把握 = 文法がまず柱として重要になります。枠組みさえしっかりしていれば後は単語を嵌めるだけです。
上記は概ね「英検準1級」レベル以上というところでしょうか。つまり、最低これぐらいのレベルにならないと使える・喜びが分かる境地にはなりません。
学校英語をしっかりマスターすると:
- 中学3年間: 英検3級 / 特に出来る人は準2級
- 中高6年間: 英検準2級 / 特に出来る人は2級
をパス出来ます。リスニング・面接もあるのでオーラル面もある程度行けていることになります。
ここからあと一歩(+1~2年の学習)で英検準1級の境地になるわけです。千里の道も一歩からなので、退屈な2級までも土台として必要です。
英検は日本固有の資格ながらかなりかっちりしており、学校英語に即しております = 文法重視です。
②学校英語はカリキュラムが優秀

抽象的な議論が長くなりましたが、中学英語の一般的なカリキュラム・習う内容を文法面からざっと見てみます。
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とあり、教科書は異なっても日本全国このような感じです。ざっと見て非常に網羅的で、英語の構造を理解するのに一通り全て抑えています。かつ段階的にしっかり理解出来るように組み立てられています。
よく「中学英語だけで英語はペラペラになれる」式のノウハウ本があり、これはまずウソですが、しっかりと学べば少なくとも英語の枠組みを理解し、読む・聞く・書く・話すの4技能において「相応に」使えるぐらいのレベルにはなります。
高校はこれを少し掘り下げるぐらいで、実はあまり新しい内容は出て来ません。むしろ語彙が広がって長文読解が難解になる、ぐらいでしょうか。
文法的に高校で初めて出て来て英語学習上大切なもの / 英語で実際によく使われるものは関係副詞(where等)と名詞+関係代名詞の役割をする語(what)ぐらい、という印象です。あとは五文型で文法体系を改めてフォーマルに定義する、など。
逆に、中学3年分、特に文法をみっちりやっておけば広大に見える英語の体系をほぼマスター出来ることになります。あるいはそういうカリキュラムになっています。本当にしっかりやれば、ですが・・・。
③教科書ガイドを活用できる(コスパも良い)

日本全国の教科書はなべてスキット(本文) + 重要文法事項 + 穴埋め練習問題という形式になっており、カリキュラムの枠組みは同じです。
教科書自体は市販されていませんので、社会人の方は手に入りませんが・・・ほとんど全ての教科書に「教科書ガイド」なる歴史ある参考書が同じ出版社から市販されています。自習用に訳や細かい解説を付けたものです(商売上手と申しますか)。
教科書の場合、本文の訳や練習問題の解答は付いていません(そこは学校の授業で教わる手はず)が、教科書ガイドの方は全て載っています。
さて、お値段的には光村のものですと1冊2,200円(税別)ですので、3年分7,000円足らずで・・・:
- 社会人の方なら、英語の文法を網羅的にマスター出来ます!!
- 中学(高校)生の方なら、3年間付きっ切りの家庭教師になってくれます(人間の家庭教師を雇う / 塾に行くののたった2回分程度です)!!!
というと大げさですが・・・単元毎に一つずつ学習項目のメインである文法事項と例文があり、その応用例として本文がある、というスタンダードながら手堅くかつ平易な内容となっています。
社会人の方の場合、半年~1年前後掛けて教科書ガイドで中学3年分を復習し、せめて英検3級 / 準2級に通るレベル(実際に受けるのもありです)になってから他の高価なメソッドを検討する方がコスパ的にいいかと思われます。
このコスパには金銭だけでなく忙しい社会人の方にとっての時間も含まれます。学校英語は体系的なので効率が良く、かつ一度はやっているので学生と違い3年を費やす必要もないはずです。
現役中学生、復習したい高校1~2年生の方にも教科書ガイドはお勧めです。
親御さんも勉強のためならよろこんでお金を出してくれることでしょう。まず懇切丁寧ですので定期試験対策の相棒になり、出来るようになると英語自体の喜びも段々分かってきます。
ちなみに教科書ガイドにはリスニングのメディア(CD)は付いていない場合もあります。座学優先なのか、販売価格を抑えるためか。塾の生徒に聞いたところ、授業では時にCDでネイティブの模範発音を流して聞かせたりするそうです。
社会人の方が音声面を補完するには、NHKラジオ講座の「基礎英語1~3」の併用がオススメです。こちらもテキスト代500円以下 / 月とお安くなっており、内容も中学1~3年のカリキュラムに概ね対応しています。
なおNHKの教材の利点については「英会話学校 vs. NHK」「スピードラーニング vs. NHK」という稿で述べておりますので、ご興味があればご参照下さい。
» 英語勉強は月500円!英会話スクール vs NHKラジオ英会話
» 【無料】NHK英語ニュース vs. スピードラーニング: コスパの良いリスニング学習方法
学校英語の論評
優れている点
- 文法中心の単元構成で、教授メソッドとしてもかっちりしている。
- 平易で英語的にも概ね正しいスキットもあり、コンテキストもつかめる。
- 練習問題で慣れさせる仕組みになっている。
いまいちの点
- あまり面白くはない
- やや文章が日本語っぽい
このように長所は「文法中心で体系的である」という絶対領域に対し、欠点としてはスキットが微妙な時も無くはない(間違ってはいない)ぐらいで、判定としては花マルは行かずとも二重マルでしょう。
さて本文が微妙な時があるのは、編纂委員会がネイティブも少しは入っているながら日本人主体のためです。但しメンバーはいずれも英語専攻の大学教授等であり基本しっかりしています。
さて、以下は余談も余談です。
たまにですが、微妙ではなく「これはどうか」というのもあります。一例で、中学生の女子が将来の職業を考えるのに、友達の親が経営するスーパーマーケットで一日インターンをする、という舞台設定がありました。
初めはお客さんに対し大きな声であいさつが出来なかった、というのを「couldn’t greet customers loudly」としていました。loudlyは大きな声で、という意味もありますが「騒々しく」というニュアンスの方が強く、ネイティブや英語を知っている人が見ると客を怒鳴りちらかすようなイメージもちらと湧きます。
間違いではありませんが、敢えて言うなら「audibly」か「loudly enough」でしょう。ただこのようなケースは例外中の例外です。
まとめ
- 学校英語は文法主体の体系的なカリキュラムで、非常にしっかりしている。
- 学校英語意味ナシ論は大抵出来ない・勉強していなかった人が唱えている(実は有意義)。
- 時に文章が少し変な時もあるが、間違ってはいない。
- 中学レベルをしっかりやれば英検準2級までは到達可能で、実用面および英語自体の楽しさの面で相当なレベルになる。
- 市販の教材としては社会人にも現役学生にも教科書ガイドが一押し。(社会人は高価なレッスン・教材に手を出す前の復習・踏み台に。学生さんは定期テスト・受験対策にまず役立つが、分かると英語自体面白くなるでしょう。)
どれぐらい説得力があったか分かりませんが、「学校英語は無駄」という昔からの風潮に反発した文章で、学生諸子にも「やって決して損では無い」と念を押して筆を措きます。
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