日本の公認会計士資格は、難易度・信頼性ともに世界トップクラスの国家資格であり、上場企業の監査や会計アドバイザリー、IPO支援など、幅広い専門業務に携わることができる強力なライセンスです。
特に大手監査法人やコンサルティングファームでは、その専門性が高く評価されており、若手のうちからプロフェッショナルとして活躍することが可能です。
一方で、近年は企業のグローバル化や会計業務の国際対応が求められるケースが増えており、英語でのコミュニケーション能力や、US GAAPなど米国基準に関する知識の重要性が高まっています。
こうした背景から、日本の公認会計士の間でUSCPA(米国公認会計士)を取得し、「ダブルライセンス」としてキャリアの幅を広げようとする動きが注目を集めています。
たとえば以下のような場面で、USCPAの資格が活きてきます。
- Big4監査法人での国際監査やクロスボーダー案件への対応
- 海外駐在や現地法人支援のチャンスをつかむ際
- 外資系企業・コンサルティング業界へのキャリアチェンジ
そのため、監査法人に勤務している若手社会人だけでなく、大学在学中に公認会計士試験に合格した方からも、「今のうちにUSCPAを取るべきか?」という声が多く聞かれるようになっています。
本記事では、公認会計士の皆さまに向けて、USCPAを取得する意義やメリット、実際のキャリアへの活かし方、取得タイミングなどを丁寧に解説していきます。
目次
USCPAとは?公認会計士試験との違いと基本情報
USCPA(米国公認会計士)は、米国および国際的な会計・監査業務に対応できる資格で、英語力と米国基準の専門知識を兼ね備えた会計プロフェッショナルであることを示すライセンスです。
ここでは、日本の公認会計士と比較しながら、USCPAの特徴を簡潔に整理していきます。
試験制度の比較表
項目 | 日本の公認会計士(JCPA) | 米国公認会計士(USCPA) |
試験言語 | 日本語 | 英語 |
試験形式 | 短答:年2回、論文:年1回 | 通年受験(CBT形式・各科目別) |
受験手数料 | 19,500円(短答・論文別) | 約$745.64〜/1科目(日本会場受験) |
試験科目 | 会計学、監査論、企業法など 短答式4科目、論文式6科目 | FAR、AUD、REG、選択科目の計4科目 |
合格率 | 約10〜15% | 約50%(科目別) |
英語の負荷 | 不要 | 高(全設問英語・読解力重視) |
活用範囲 | 日本国内中心 | 外資系・海外駐在・国際業務で有利 |
USCPAは圧倒的に受験がしやすい試験制度
日本の公認会計士試験は、短答式・論文式ともに受験回数が限られており、一発勝負のプレッシャーが大きい試験です。合格までに複数年かかるケースも一般的です。
一方、USCPAは通年受験が可能で、1科目ずつ分割受験できることから、働きながら・学びながらでも計画的に進めやすいという利点があります。
また、出題形式も選択式や実務シミュレーションが中心で、記述式の論文問題はありません。こうした点から「学習負荷」は比較的軽く感じられるでしょう。
一方で、費用面では大きな差があります。日本の公認会計士試験では、受験手数料は短答・論文それぞれで納付する形ですが、一回19,500円です。
対して、USCPAは1科目ごとに受験料が発生し、さらに日本会場で受験する場合は追加料金も必要です。
たとえば、FARなど主要科目を東京・大阪などの日本会場で受験する場合、1科目あたり約745.64ドル(約11〜12万円)となり、4科目合計で約30〜50万円に達することもあります。
予備校代はどちらもかかりますが、USCPAのほうが「試験そのものにかかる費用」が高い点には注意が必要です。



公認会計士がUSCPAを取得するメリット5選
日本の公認会計士資格だけでも高い専門性と信用力がありますが、USCPAを追加取得することでキャリアの幅や選択肢が一気に広がります。
ここでは、公認会計士の皆さまにとってUSCPA取得がどのような価値をもたらすのか、代表的な5つのメリットをご紹介します。
国際案件に強くなれる(Big4内での活用)
USCPAを取得することで、米国基準(US GAAP)やSEC報告への対応能力があることを証明できます。
これにより、Big4をはじめとした監査法人での海外企業とのクロスボーダー案件やグローバル企業の監査業務を任されやすくなります。
また、USクライアントや外資系子会社の監査では、USCPA資格の有無がアサイン判断に影響するケースもあります。


海外駐在や海外転職に有利
USCPAはグローバルスタンダードな会計資格であり、アメリカを中心に多数の国で高く評価されています。
とくに日系企業の海外子会社の管理部門や、海外駐在ポジションでは、USCPAの資格があることで現地会計基準との橋渡し役として選ばれやすくなります。
さらに、シンガポール・香港・UAEなどの国際金融ハブでも評価が高く、転職市場での武器となります。

英語での信頼性と名刺効果
クライアントや上司が外国人である場合、「日本の会計士資格」に対する認知が十分でないことも少なくありません。
その点、USCPAというわかりやすい“英語圏資格”を持っていることで、初対面でもスキルを直感的に伝えることができます。
名刺に“CPA (US)”と書かれているだけで、「英語で仕事ができる」「国際案件に強い」という印象を持ってもらえるのは、大きなアドバンテージです。

学習時間を大幅に短縮できる
USCPAは一般的に1000〜1500時間の学習時間が必要とされていますが、日本の公認会計士試験に合格している方であれば、すでに高度な会計知識・監査知識を有しているため、その半分程度、500〜700時間程度に短縮できるケースが多いとされています。
特にFAR(財務会計)やAUD(監査)は、JCPA受験時の知識と重複する部分が多く、復習感覚で進められる点は大きなアドバンテージです。英語へのハードルを除けば、知識面での参入障壁はそれほど高くありません。


海外MBA・大学院進学の準備として活用できる
USCPAは単なる会計資格ではなく、英語での学術的・実務的なリテラシーの証明にもなります。
そのため、将来的にMBAや会計・財務系の修士課程(MAcc, MSFなど)を海外で取得したいと考えている方にとって、強力なアピール材料になります。
また、実務知識やファイナンスの素養が前提となる欧米の大学院では、USCPAの取得が出願書類で評価されやすく、スカラーシップ獲得やプレコース免除に繋がる可能性もあります。


いつUSCPAを取るべき?大学生と社会人での取得タイミング比較
「USCPAを取りたいとは思っているけど、いつ取るのがベストか分からない」という声は少なくありません。
この問いに対する答えは、読者の立場によって変わってきます。
ここでは、すでに公認会計士試験に合格している大学生と、社会人(特に監査法人勤務)の2タイプに分けて、最適な取得タイミングを比較してみましょう。
大学生の場合
大学生で公認会計士試験に合格している方の多くは、燃え尽きたような感覚を抱えるものです。
とはいえ、就職後に比べて時間の融通が利き、勉強体力もまだ残っている今こそが、最後の自己投資チャンスとも言えます。
USCPAの学習は、既に身につけた会計知識と大きく重複しており、記憶が鮮明なうちに進めることで大きなアドバンテージになります。
また、TOEICやTOEFLなど英語資格に取り組むよりも、実務に直結する英語力+国際資格のダブル取得が可能です。


社会人の場合
監査法人や事業会社で実務を積んでいる方にとって、USCPAの価値はより具体的になります。
たとえば、外資系クライアントとのやりとりや、クロスボーダーM&A・国際監査の案件に関わるようになったタイミングは、まさに「必要性」が見えてきた瞬間です。
USCPAの学習内容が業務とリンクすることで、学びがそのまま実務に活き、効率的なインプットが可能になります。
また、将来の転職・MBA進学・海外駐在など、他の同僚との差別化やキャリアの布石としても有効です。

USCPAを活かしたキャリアパス【想定シナリオ付き】
USCPAの資格は、取得しただけでは価値が見えにくいものの、使い方次第でキャリアを一段階押し上げる強力なツールになります。
ここでは、実際に多くの合格者が歩んでいる3つの代表的なキャリアパターンをご紹介します。
監査法人 → 海外駐在 → 外資系CFO
<想定シナリオ>
大手監査法人に勤務して3年目。日系上場企業の監査に従事していたが、USCPAを取得したことで、外資系企業の米国基準(US GAAP)監査チームに異動。
その後、クライアントとの関係構築力と英語力を買われて、シンガポール駐在に抜擢される。現地での経験を活かし、数年後には日系企業の海外子会社CFOに転職。
このケースでのUSCPAの役割:
- 米国基準の専門性アピール
- 英語での会計・監査対応力の証明
- 駐在・外資CFOという次のステージへの“きっかけ”づくり


国内会計士 → 英語力+USCPAでコンサル転職
<想定シナリオ>
国内監査業務を中心に5年間勤務。将来の成長に不安を感じ、30代前半でUSCPAを取得。
加えてTOEICやビジネス英語も強化し、財務デューデリジェンスやM&A支援に関心を持つように。
その後、外資系FAS(財務アドバイザリー)部門に転職し、クロスボーダー案件の専門家として活躍。
このケースでのUSCPAの役割:
- 業務領域の拡張(監査→M&A・DD)
- 英語と財務のスキルを組み合わせた市場価値向上
- コンサル業界への“踏み台”としての機能


早期合格者 → 学生時代のUSCPA → 海外大学院進学
<想定シナリオ>
大学在学中に日本の公認会計士試験に合格。卒業前の時間を活用してUSCPAも取得。さらに英語学習に力を入れ、卒業後に海外のビジネススクール(米国・欧州)へ進学。
その経験を活かして、外資系企業の経営企画部門に新卒入社し、グローバルキャリアを歩み始める。
このケースでのUSCPAの役割:
- 大学卒業前の希少な資格保持者としての差別化
- 海外大学院でのアカデミック基礎の証明
- 国際志向の企業・ポジションへのアクセスを広げる鍵

終わりに
日本の公認会計士資格をすでに持っている方にとって、USCPAの取得は「守り」ではなく「攻め」のキャリア戦略です。
これからの時代、会計・監査の専門性に加えて、英語力や国際対応力が求められる場面はますます増えていくでしょう。
USCPAを取得することで、次のような価値が得られます。
- 国際案件や外資系企業へのアクセスが広がる
- 将来の海外駐在や転職に備えた“選択肢の準備”ができる
- 会計士という枠を超えて、コンサル・投資・経営企画など多様なキャリアに踏み出せる
特に、社会人経験が浅い方や学生のうちに合格済の方にとっては、今この瞬間こそが“余力がある”貴重なタイミングです。
一方で、すでに実務経験を積んでいる方にとっても、USCPAは自身のスキルを外部に示す「国際資格」として非常に有効です。
たとえ今すぐ使わなかったとしても、将来の「武器」や「保険」として持っておく価値は十分にあります。
自分のキャリアを守るためではなく、広げるための自己投資として、USCPA取得を本気で検討してみてはいかがでしょうか。


